子どもの行動にはいつも感心させられたり、ハッとこちらが気づきを得ることだってあります。一方で、子どもらしい無邪気な行動は大人のイライラや、悩みの原因になることだって多々ありますよね。
今回は、大人目線での「なんでそんなことするの?」という疑問に対して、臨床心理士の視点から解説をしてみようと思います。非常に個別性の高いお話ですので、参考にしていただきながら「あの子の場合はどうかな?」と考えるきっかけになっていただけたら幸いです。気になる行動、感情コントロールの問題などについて考えてみましょう。
今回は、知って得する子どもの行動の見方についてのお話です。
前提として子どもは発達途上であるという事実
特に親御さんや先生方の場合、この事実はご承知のことと思います。しかし、意外にも大人が子どもに期待している力と子どもの発達のレベルにはギャップがあることが多いように感じます。つまり、感情コントロールや気になる行動への対処を子どもに任せるというのはもしかするとハードルが高いことである可能性があるのです。「ちょっと待っててね」「これはしないって約束できる?」というのは年齢的に見て難しい場合があります。一般的に、約束を守ったり、ダメと言われた事を意識したりすることは精神年齢(発達年齢)で5歳以上と言われています。これを前提とした上で、今回は子どもの問題行動や気になる行動について考えてみましょう。
- 発達課題
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イヤイヤ期というのがあるように、子どもの発達課題というのがあります。イヤイヤ期には自我が芽生えて主張を何でもかんでもしてみるというのが、発達上重要になってきます。その発達課題をクリアし次のステージに進むことによって自然にイヤイヤ期というのは減ってくると言われています。発達理論についてエリクソンの漸成的発達理論というものがありますので、気になる方はチェックしてみてください。大人目線では困る行動があったとしても、子どもの発達上必要な行動であることもあります。この場合、問題対処というよりは成長を見守るという視点が大切になってきます。
- 体験を言葉にすることがまだ発達途上
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色々なことを言語化して抽象的に表現できる大人とは違い、子どもはうまく言葉にできません。また今の状態を正確に表現する語彙を持っていないかもしれません。そのため、今の不快感や感情を伝えるために行動で表現するということは多くあります。意外に見落とされやすいのですが、表現方法が他になかったという場合もありますよね。
例えば、やりたくない(回避)、これじゃない、あれが欲しい(要求)、構ってほしい(注目)、その行動自体が楽しい(感覚刺激)などです。その行動が減らなかったりいつまでも維持されているという場合には、子ども側に何かしら欲求があるのかもしれません。
特にお子さんの場合ですと、構ってほしい(注目)機能を持った行動が多いと言われています。一歩引いて子どもを観察しながら分析する必要があるかもしれません。
- トラウマ由来の防衛的行動
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今いる環境が安心できなかったり安全な環境でない場合、子どもは自己防衛のためにさまざまな行動をします。その中には周囲の大人を振り回してしまう行動もあるかもしれません。シクシクと大人を求める表現方法の子もいれば、大暴れして適応的ではない表現方法で表す子もいます。この場合、頭ではやってはいけない事とわかっている場合、興奮が落ち着いてくると「またやってしまった」と落ち込みが見られたり、暴れている時の記憶がなかったり、過剰に興奮してしまうのが特徴です。それだけ身の危険を感じているということになります。この、子どものトラウマ反応というのは意外にも多いのです。トラウマのきっかけとしては大人からすると些細なことが多いですが、子どもにとっては大事件であることがあります。例えば、自分以外の誰かが先生や親から怒られているのを目撃してしまったとか、たまたま夕方に雷が鳴って非常に怖い体験をしたお子さんの場合、晴れていたとしても夕方になると不安になることが増えてしまったり。なんらかの理由で、安心安全が失われてしまうと反射的に困った行動に出てしまう子もいます。そして周囲から”一般的な指導”を受け、どんどんネガティブループにハマっていくというパターンを非常に多く見てきました。ここで言う”一般的な指導”とは、悪い行動に対して注意、指導をすることを指しています。このトラウマ反応由来の防衛行動は、本人にも意識的に止めることは非常に難しい反射行動になります。身体から感覚的に湧き上がる強い不快感があったりします。頭では理屈としてやってはいけない事をしてしまったと言う自覚があるけれども、意識的には止められないジレンマに陥っている場合があります。その場合には”一般的な指導”ではなく、後に述べる対応が有効であったりします。
子どもの「なんでそんなことするの?」を理解していくためには、1発達課題、2言語化の難しさ、3トラウマ反応 がある。
子どもの行動を理解するために
今までのところをまとめてみると、発達上のクリアすべき課題なのか、それを表現する手段が未熟なのか、ストレスに対する反射的行動なのか、あるいはそれらが重複しているのかを見極めることが大切になってきます。
その中でも、発達上の課題と表現する手段の未熟さについては子どもの成長を待ったり、子どものニーズを大人が言語化して見本を示したりすることが効果的でしょう。また、大人側の課題として、今期待していることが、今の子どもの発達に見合った要求なのかを再度考えてみる必要があるでしょう。この発達というのは一般的な平均ではなく、その子その子の発達レベルや段階を意味し、非常に個別性の高いものになります。
一方、ストレスに対する反射的な行動の場合、私たちは意外にも見落としてしまうことが多くなります。子どもにとって危険から身を守るためにとっている行動なのに、大人から叱られたり咎められると子どもも混乱したり、より深刻なトラウマ症状へと発展してしまう恐れがあります。このストレスに対する反応は反射的な反応です。理性ではなく、本能的な部分の働きになります。教室にいるだけで感覚的にイライラしてきたり、大人の男の人と一緒にいると落ち着きがなくなってパニックになってしまうなどさまざまな表現方法があります。授業が退屈だからとか、サボりたいからということももちろんあり得ますが、「もしかするとなんらかの原因によって危険を感じているのかもしれない」という視点は大切になってきます。
ストレスの信号機
これは大人も子どもも当てはまることですが、ストレスや負担がかかると人間はいつもの穏やかな気分ではいられません。以下に、ストレスの程度に合わせた反応を信号機の色に例えて説明をします。子どものトラウマ由来の防衛的行動に対しての指導にも応用することができます。
- 青信号
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青信号の時にはいつも通りの自分です。穏やかでユーモアがあったり楽しい時間を過ごすことができます。ストレスや負担感による影響はほぼない通常時です。たくさん褒められたり認められたり、自信を育んでいくことが大切でしょう。
- 黄色信号
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イライラしたり不安になったり緊張したり、交感神経が優位になっているモードです。コチラ。この時には非常に活動的なモードとなっているので、いつも以上のエネルギーを出すことができます。良い面も困る面もあります。対応としてはまずは落ち着いてもらう必要があります。深呼吸をしたり、水を飲んだりトイレに行ったりその場から離れてみるのも有効です。高まった神経を落ち着けることが一番大切です。トラウマ由来の防衛的行動の多くの場合は黄色信号か赤信号である場合が多いので、理屈で指導するよりもまずは気持ちを落ち着けたり、安心安全な場所である、と本人が思えるような工夫が大切です。
- 赤信号
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ストレスや脅威に圧倒されてしまってフリーズしてしまっている状態です。この時には理性的な判断は難しく、行動自体固まってしまうことがあります。対応としては、脅威に圧倒されている状態なので、まずは物理的に安心安全の確保できる場所や環境を用意してあげましょう。集団よりも個室が良いし、静かな場所が良いでしょう。周囲からたくさん話しかけることも刺激となってしまうことがありますので、子どもにとっての安心安全を確保した上で信頼できる大人とフリーズが解けるまでゆっくり過ごします。
子どもの問題行動の見方について
ここまで子どもの困った行動について書いてきましたが、全て子どもなりの理由があるというところは共通していることと言えます。そして「大人を困らせるためにする行動」というのはあまりないようにも思えてきます。子どもなりの表現方法なのでしょうが、発達途上ゆえに不器用であり、うまく表現ができないというところが大きいのかもしれません。そして新たな視点として、ストレスへの反射的行動というのもお示ししてきました。子どもの欲求を見極めてどのように対応をしていくのか考えるのは大人の役目です。子どもが生活しやすいように考えていくのはもちろんですが、表現方法が派手なお子さんの場合、問題児扱いされやすいというデメリットもあります。この行動の裏側にはどんな理由があるのかについて考える時に、今回の記事が少しでもお役に立てばこんなに嬉しいことはありません。
皆さんの理解の一助になれば幸いです。
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