トラウマを体験した時に知っておいてほしいこと ネガティブループに陥りやすい心の仕組みとは?

生きていると突発的なアクシデントやトラブルに見舞われることってありますよね。私自身、先日通勤途中に原付と自動車の交通事故を目撃しました。その時の心の動きとして「トラウマ反応」と呼ばれる一連のものを観察することができました。

今回はそのようなトラウマチックな出来事への心の反応について解説をしていきたいと思います。他の記事で「トラウマとは何か」について解説をしていますので関心のある方はそちらも合わせてご覧ください。

今回は少しですが私自身が目撃した交通事故の事例が出てきます。苦手な方は飛ばしてください。

今回は知っていると得する突発的なアクシデントへの心の反応のお話です。

目次

車で通勤中に原付と自動車の交通事故を目撃しました。その状況下での私の心の反応について見てみましょう。

まず、交通事故を目撃した直後、一番初めの反応は「びっくり」でした。「あ!」と声を出して驚きました。少しの間思考停止し、そして頭がフル回転して「通報した方がいいのか」「戻った方がいいのか」「でもカウンセリングが入っている」と短時間のうちに非常にたくさんの思考が頭を巡りました。

そしてそんなことを考えていると、目撃前に聞いていた曲が終わり次の曲も終盤に差し掛かっていることに気がつきました。「こんなに時間が経っていたのか」と気づいた瞬間に、肩や肘、膝など関節が固まっていることに気づき、呼吸が浅く早くなっていることに気がつきました。つけていたスマートウォッチで心拍数を確認すると平均よりも1分間の心拍数が10回以上多くなっていました。

そうしているうちに現場からかなり遠くまで運転していたことに気づくと「ドラレコのデータを提出しなきゃ」「いや、助けなきゃダメだろ」など、適切な対処ができなかった自分を責める考えが浮かび始めました。そしてその事故のことを自然に考えてしまい、「ガシャん」という音が耳から離れない感覚がありました。職場につき、興奮気味に同僚に話をしているうちに落ち着いてきました。ただ、「ガシャん」という音だけが耳から離れない感覚がありましたので簡易的なトラウマ処理を行いました。

交通事故という突発的なアクシデントに対する心の動きと身体の反応について述べてきました。私が体験したお話ですが、要素を抽出していくと、トラウマ的な出来事に対する心理反応が多く含まれています。

①Fight-flight-freeze反応

戦うか、逃げるか、固まるか、と訳されます。心と身体が強い危険を感じることを危機的状況と表現しますが、そのストレスに負けないように自分を防衛する心の動きです(正確には自律神経系の働きです)。ストレスが許容範囲内の場合、アドレナリンを分泌して戦うことでストレスを排除するか、逃げることでストレスを回避しようとします。また行動だけではなく思考にも当てはまります。色々な考えがうわーっと出てくるというのもこの反応の一つです。ストレスという問題解決に対して、積極的に動くための反応が非常にパワフルに出ます。一方、フリーズ(固まる)反応というのは、一番最初に私が体験したような、思考停止したり足がすくんで動けなくなったりまるで凍りついたかのように固まってしまう反応を言います。これは突発的な出来事に驚いたり、アクシデントに圧倒されてしまっている時に出現する心の反応です(正確には自律神経系の働きです)。動物の本能として、あまりにも圧倒される出来事を前にした時には下手に動くよりも、フリーズして固まっていた方が生存確率が高いという知恵の名残りなのだそうです。

私の体験を見てみると、まず最初に目撃の衝撃から「フリーズ」して思考停止しました。時間経過とともに冷静になると、フリーズが解けてきて思考が次々に出てきたり、フリーズしていた時間感覚が戻り「自分がフリーズしていたこと」に気がつきました。危機的状況が去り、少しずつ心に安心安全感が戻ってくると、言葉通りフリーズして固まっていた身体から徐々に力が抜けていきました。

②落ち着きを取り戻してからの反応

フリーズ反応が解けて、徐々に冷静になってきた後に訪れたものは適切に振る舞えなかった自分を責める考えでした。「あの場面ではこうしておけばよかったのではないか」「もっとできることがあったのではないか」と。

このような自分を責める考えというのは、フリーズ反応が解け、冷静に客観的に考えられる力が戻ってくると多く体験されることのようです。

というのも、Fight-flight-freeze反応というのは【太古より遺伝子レベルに組み込まれた緊急事態への対応】なので、理性的で道徳的な反応はできません。自分を危機から守ることが最優先です。一方でその反応が解けて、いつもの自分に徐々に戻ってくると、現代的で理性的で道徳的な思考ができるようになります。そうすると、Fight-flight-freeze反応をとった自分を責めてしまうという現象が起きてしまうのです。ただ、これはどちらも正しい反応で、Fight-flight-freeze反応をした自分というのは、生き残るために必死だし、理性的で道徳的な思考というのは現代社会を生きていく上で欠かせません。それぞれが優先していることの差が自責となって現れてしまうことがあるようです。

残る反応

時間が経つにつれて落ち着きを取り戻し、フリーズしていた自分にも気づき、自分を責める考えにも気づきました。交感神経が優位になっているなあと感じながら冷静になっていきました。ただ、「ガシャん」という音が耳元に残りました。トラウマ的な出来事があったときに大抵の場合は時間経過とともに薄らいでいくことが多いですが、再体験、回避、過覚醒というトラウマ反応として残る場合があります。詳しくはコチラ。私の場合は耳元に音が残りました。

それについては、職場に到着後に簡易的なトラウマ処理を行い薄らいでいきました。

Fight-flight-freeze反応は【異常事態が起きた時の普通の反応】

前述しましたが、危機的状況に陥ると、自動的にFight-flight-freeze反応が起きます。Fight-flightに関しては、能動的に動けることが多いのでわかりやすいですが、フリーズ反応を覚えておいてほしいのです。

人間も動物なので、被害を最小限にするための努力としてフリーズをします。立ちすくんで動けない、腰が引けて動けない、頭が真っ白になってしまう、これらは代表的なフリーズ反応です。懐柔反応というのもあり、被害を抑えるために加害者の言いなりに動いてしまう反応です。全て危機的状況を最小限の被害に抑えようとする古代からの知恵です。危機的状況が起きた時には、理性的に考えている暇はありません。自動的に、生存するための最善策を取るようにできています。

冷静になって理性が戻ってきた時に、自分を責める考えはきっと浮かんでくるでしょう。「他に何かできなかったか」「もっと行動すればよかった」とか。でも、その当時は危機的状況が起きていて、自分はフリーズ反応を起こしていたのだ、そのときなりの最善の行動だったのだという見方をぜひ覚えておいて頂きたいと思います。

びっくりするような出来事やアクシデントが起きて、フリーズが解けたり、少し冷静さが戻ってきた時には、グラウンディング(定位づけ)が有効です。「今この瞬間」に意識を戻すということです。深呼吸をして呼吸に意識を向けたり、遠くを見たり、音楽に耳を傾けたり、風を浴びたり、手足をくねくね動かしたり。Fight-flight-freeze反応が起きると、危機を抜けるために必死になります。少し余裕が出てきたら、現実世界にしっかりと戻るような工夫をしてみることが大切です。

長期間反応が続くようなら専門家に相談するのも一つです。

トラウマ反応が長期間続くと、生活に支障が出る場合があります。感情コントロール不全や睡眠、食欲等に影響が出るなど。さまざまな解決策があると思いますが、トラウマへの対応が可能な専門家、機関への相談も一つです。

今回は、突発的なアクシデントやトラブルに見舞われた私自身の体験をもとにお話を進めてきました。自分の体験に意識を向け続けるというのも私にとって定位づけ(グラウンディング)の良い方法でした。

ストレス反応の一つにフリーズ反応があるということは、あまり知られていないのかもしれません。ですが科学的に明らかになっていることです。動けなかった、対処できなかった自分を責めてしまうというのはとても辛いことです。今回の記事がほんの少しでもお役に立てて頂けたなら嬉しいです。

皆様の理解の一助になれば幸いです。

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この記事を書いた人

静岡県浜松市にある、メロウカウンセリングオフィスを運営する臨床心理士、公認心理師。子どもから大人まで幅広くカウンセリングを行ってきた経験をもとに情報を発信していきます。感情コントロールや自分との付き合い方、トラウマケアに専門性を持ちます。
3児の父としても日々奮闘中。。。

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